剣町柳一郎の日々のつぶやきや愛読書、歴史エッセイなど楽書きしていきます。

千代女と朝顔雑記

 朝顔の句と言えば、「朝顔や昼は錠おろす門の垣」の芭蕉や蕪村の「朝顔や一輪深き淵の色」が有名だが、小学校の教科書にも出てくる千代女の「朝顔やつるべとられてもらい水」。これほどよく知られた句はない。釣瓶に巻き付いた朝顔に見惚れて、他所に水を貰いに行く千代さんの姿が目に浮かぶ。その朝顔を愛でる心が優しいから、句にも情感が出てくるのだろう。いや、もらい水に行った先の家にいい男がいるのかも知れないと思うのは不謹慎か。千代さんは恋をしていたかも知れないのだ。千代さんの句は写生の句が多い。目の前に広がる景をひたすら見ている。時代的にも、丸山応挙や鈴木基一の画よりも早く、写生をものにしている。養女ながら、千代さんの目はひねくれてはいない。最初は「朝顔に」と詠み、三十五歳の画賛を入れた折に「朝顔や」と書き直している。「朝顔や」という切れ字で、貰い水の卑しさを隠したのだろうか。千代さん、いつまでも迷っていたのでしょうな。さて、千代さんには朝顔の吟が二十八句あり、「朝がほや宵に残りし針仕事」「朝顔や蝶のあゆみも夢うつつ」
 「朝顔や宵から見ゆる花のかず」
 「あさがほや帯して寝ても起はづれ」などが有名だ。変化朝顔に興じた江戸文化。朝顔はこの頃は珍しく、まだ高嶺の花だったはず。千代さんが愛した朝顔を探すのも面白いかも知れない。「朝顔は蜘の糸にも咲きにけり」 、小生はこの句が好きですね。「芝浜」で有名な三代目桂三木助の落語に「加賀の千代」がある。大晦日。金策が出来ていない甚兵衛に、ご隠居さんに借りておいでと女房がけしかける。
「ご隠居さんはおまえさんが可愛くてしょうがないから、貸してくれるよ」と。「子供でもないのにかい?」に「生き物だけでなく植物だって同じで、朝顔だって同じだよ」と答える。「昔、加賀に千代という歌の上手い女性がいた。お殿様の耳に入り伺候する事になった。殿中に上がりお殿様と対面したら、着物の紋が目に入り、紋は梅鉢であったのでさっそく句を詠んだ。『見やぐれば匂いも高き梅の花』。そのぐらい歌が上手かった。それに、『朝顔につるべ取られてもらい水』だよ、おまえさん、朝顔だって可愛がる人がいるんだよ。ご隠居さんがおまえさんを可愛がるのに不思議があるものか」、「俺は朝顔か。じゃ、どれだけ借りてくればいいんだ」。で、金のやりとりがあって、首尾よく金を手にした甚兵衛。「有り難う。やっぱり朝顔だ」、「その朝顔とは何だ」とご隠居さん。「朝顔につるべ取られてもらい水だ」と言われて、ご隠居さんが「待ちなさい。朝顔につるべ取られてもらい水? 解った。加賀の千代か」。「う~ん、嬶(かか)の知恵だ」と返す甚兵衛であった。おそまつ。

Copyright © Ryuichirou Tsurugimachi All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.