剣町柳一郎の日々のつぶやきや愛読書、歴史エッセイなど楽書きしていきます。

カムイという男

 時代は江戸初期、舞台は奥州日置藩。飢饉で食いものに困る農民に、どのようにして一揆は起きるか。取り締まる錦丹波という代官。歴史の一コマを抽出してみせてくれた漫画である。支配者と支配される者を描き、共同で生きる村人たちを描いて、当時の学生に大いに支持された。
 右手抜きの小刀で戦う抜忍カムイ、そのカムイを追いかけ殺そうとする男たちやくの一女忍者。抜忍とは群れ(ブループ)から抜け出た忍者。貧乏な百姓に救いはあるか。文字を教え、稲作と同時に新しい生産を狙って、綿花を栽培するもうひとりの主人公下人百姓の正助やスダレ。花巻村の正助はいろんな生産に果敢に挑戦する、インテリである。豪商が出て来たり、元下級武士の草加竜之進が出て来たり、いろんな階級の人間が登場。歴史の大舞台に繰り広げられる劇画である。マタギ、動物たち、蚕、漁師、鍛冶屋といろんな仕事を持った人物が出てくる壮大な物語である。わかりやすく、ビジュアル的に戦う意志とシーンを見せてくれたと言える。
 復讐と陰謀の物語は興味深い。百姓は哀れか、弱い存在か。武士と比較して、どうか。権力を持つことが「強く生きる」ことになるのか。こうした問題提起は、まさに文学的である。ひいては、日本人とはどういう存在かも窺える。カムイを知ることがすべてである。江戸時代を知ることにより、人間の深淵にふれることになる。
 物語のラスト、一揆の首謀者たちは捕まり、磔の刑にあう。正助だけがなぜか助かった。だが、舌を抜かれる。これには暗示してくれるものがある。話すこと、言い訳をすることができない正助。皆から、なぜ、おまえだけが助かったのだと責められる。豹変した村人たちから石を投げられ、逃げる正助。
 一揆を通して支配者と支配される者を描き、共同で生きる村人たちを描いた劇画は小説を超えている。白土三平・赤目プロが描く「カムイ伝」。支配の構造と共同体の幻想を描き、歴史を照射し、階級とは何かを考えさせてくれる。「命と死」を描いた物語としても優れている。「カムイ!」とだけ叫ぶ、山丈と呼ばれる巨人は何者か。物語のクライマックスになると出て来る巨人である。原作者白土はこの巨人に問題を解消させていることは見逃せない。
 一九六四年、『カムイ伝』は伝説の漫画雑誌「ガロ」に掲載され、第二部は一九八八年に『ビックコミック』に連載。同時に『カムイ外伝』も書かれ、『カムイ伝全集』は小学館から刊行されている。
 一揆とは古くは一致するという意味であり、「揆(みち)をひとつにする」という漢語であることをご存知あるか。

Copyright © Ryuichirou Tsurugimachi All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.