嵯峨野花譜は興味深かった。

「親子の縁は相手の喜びであると言う、人の縁の中でも一番、仏様に近い縁でございます」これはいい言葉ですね。

葉室麟さんの「嵯峨野花譜」を読む。華道未生流・不濁斎広甫の弟子で、実は幕府の某老中の子である胤舜が主人公の短編が十編。元武士の源助や兄弟子たちの力を借りて、大覚寺で生きていく、墨衣の若き僧。活花(立花)を題材に、繰り広がれる物語。別れた母との邂逅と死、そして、障子越しの会話。葉室さんの良さは文章の巧さと含蓄のある会話にある。よく素直な言葉を思いつくのはなぜだろう。才能だろうか。他人を思いやる心が原点にあるからだろう。そして、単に切った張ったの展開でなく、心に余韻をもたらしてくれる。藤沢周平と似ていながら、しめやかに登場人物の人間性が浮かび上がる。どちらかと言うと、時代を上手に取り入れながら、心のひだを描く乙川優三郎に近い気がする。惜しい作家が逝かれたと思う。活花(立花)の世界、花一つに込められる思いに舌を巻く。芸事として活花をしている方々には是非とも読んんでいただきたい一冊だ。氏に黙祷。