油蝉に混じって、やっとツクツクホウシが鳴き出した。

草むらで虫もうるさいばかりに鳴き出した。

夜、月の近くの赤い火星を見ながら、

路地の熱が冷めてから、老犬を散歩させる。

スイチョン甲高く鳴いているのは、馬追いだ。

馬追いとは妙な名前だ。

昔、能登の田舎で古い柱に止まって、スイチョンと鳴いていたのを

思い出す。黄色い電球の下で、テレビもなく、何をしていたものだろう。

肝心なことを覚えていなくて、

些細なことばかりが記憶に残っているのは、

性格からくるものだろうか。

枝葉だけを見て生きてきたような気がする。

光や風に戯れて、ひらひらと翻る葉の鬱臭に魅せられて。

ツイートと鳴くのは、どうもツユムシだ。

夜、家の前の森で老犬を連れ出し、

小用をさせると、彼は虫の音を聞いているようだ。

しばらく鼻をひきつかせて、闇に目を凝らしている。

月には吠えない。