不思議と、この時分に咲く彼岸花。
兼六園に近い能楽会館に、能ルネッサンスを観に行く。
折口信夫の「死者の書」の景を舞と映像でみせてくれるというので。
幽世を「カクリヨ」と名付けて、読ませた折口。
幽世と現世を行き来する能。舞囃子、大鼓、鼓、太鼓が誘う。
「死者の書」の中で、「幽世」をカクリヨと充てた折口。
そのイメージは、「幽」という漢字の元が…
撚った糸の束が火で燃やされて黒くなったようなものだという。
闇にあって、かすかな、ほの暗い情を現す意味になったのだ。
初めて知った。なるほど、撚った糸を燃やした滓こそ、幽の字に見える。
糸が人を結びつけ、「魂」を呼び込む、たぐり寄せる縁。
「幽界」とは、まさにそんな世界である。
「死ぬに死ねない」人の魂が寄って、仄かに火を放つ。
そのおぼろげな物語こそ、妖しい炎に照らされた「死者の書」。
これまで三度読んで、途中で投げ出してしまった書物だった。
トルストイの「戦争と平和」みたいに。
だが、意味を知ったからには、今度こそ読み終わらせたい。
能舞台で演じられたカクリヨ。朗読と妖しい映像が写し絵のように
繰り広げられ、緩やかな動きで能が舞われた。
足運び、息遣い、能は剣士のごとき動きでもある。
夢幻のひと時へと誘ってくれたひと時でもあった。

能舞台