秋晴れの午後下がり。陽がまぶしく照り、葉がかすかに風に揺れると、
影も揺れる。この風景は以前見たことがある。幼い頃、庭で遊んでいて、
ふと空を仰いだ時、感じたシーンのようだ。
静かで、葉だけが動いている。どこかで蜂が飛ぶ羽音が聞こえてくる。
至福のひと時とは?と、思いやると、学生の時に、
アニエス・ヴェルダ監督の「幸福」(しあわせ)という映画を見たことを
思い出す。彼女はヌーベルバーグの旗手で左派だったと思う。
夫婦と子どもたちが手をつないで草叢を歩いてくることから
はじまる。ピクニックに出かけたのだろう。虫が逆光を浴びて飛んでいる。
羽音が聞こえてくる。その風景は、今日の午後のように陽ざしが
まぶしい季節だったと思う。きれいな風景の中、幸福な家族の姿を
見たような気がした。妻を愛しながら、新しい女を好きになってしまう物語で、
妻は池に身を投げて死んでしまうが、新しい女を妻に迎え、
いつもと変わらない日常生活がまた続く。
新しい母に動じない子どもたち。たんたんと流れる時間に、
新しい家族の幸福は続くのだった。
自分が幸福になりたいのか、女性を幸福にしてあげたいのか。
男の気持ちがわからないだけに、「変わらないこと」が不気味であった。
ラストも、プロローグと同じように新しい家族がピクニックに出かけ、
手をつないで草叢を歩くシーンで終わる。誰かを犠牲にしながら、
「幸福」を求める心の怖さを描いていた映画であった。
女性監督ならではの視点である。ヒマワリ、水辺、ピクニック、
白いシーツ、片田舎の郵便局、そして逆光を浴びて
飛ぶ虫たち。とても、絵画的であった。
フランス映画で、モーッアルトのクラリネット五重奏曲が流れていた。
映画を観た日、ドラマとはドラマ的でないことにあることを知った。
白い光りにつつまれた風景を目にすると、つい思い出す。