小品を集めた作品集。堀江敏幸『坂を見上げて』中央公論社。各小タイトルがいい。文章として、いわばコンセピトを含んだ、衒いがない。例えば、「文字による登山」「春の空に登る」「霞にまぜるもの」「八月の光には音がある」「影をとどめた球体」など。本文はいわゆる堀江調。読んでわかったような、わからないような物語だが、例のごとく雰囲気がある。不思議を書くだけで、一つの本のスタイルを作っている。何回も読みたくなる。詩集のような掌編と言って良い。鏡花に似て、空気感を読ませるところがある。夜に読むと、時が満ちていく。闇の中へ、舟を漕ぎ出で、朝を忘れてしまうような一冊だ。今覚えば、彼に気を惹かれた最初の一冊は「雪沼とその周辺」だった。いい本だなと思った。