葉室氏は直木賞受賞以来、執筆の速度が急に早くなった。ずいぶんと原稿を書き溜めてあったのだろう。矢継ぎ早に、佳品を発表している。そのどれもが読み応えがあるのは、藤沢周平の本以来だ。「千鳥舞う」は、女絵師の物語で、好きな作家の乙川優三郎「麗しき果実」の主人公・女蒔絵師と似ているところもあるが、人格が捉まえやすく、読みやすかった。章の組み立て方が屏風を描いていくシーンとだぶらせているからだろう。短編の積み重ねで、主人公を追いかけている。風景をテーマにまとめるやり方がなるほどと思わせる。私感であるが、受賞した「蜩ノ記」よりも佳品であったと思う。「蜩ノ記」はどちらかというと、賞狙いのテーマ「死ぬまでのひと時をどう生きるか」があった。癌といった病からでなく、日にちが決められた切腹を迎える武士の心を追っていた。ところが、「千鳥舞う」は男女の思いと別れを描きながら、女のけなげでしたたかな意思が出ている。描かれる情景にも、文章の巧さがにじみ出ていて、一幅の軸を見るようでもある。いい本に出会ったなと思った。